原子炉施設等で原子力災害が発生し大気中に大量の放射性ヨウ素が放出されたと想定した場合,放射性ヨウ素が甲状腺に蓄積され内部被ばくを引き起こす可能性があります。
この甲状腺内部被ばくの予防策には,屋内へ退避し窓などを閉めて放射性ヨウ素を吸入しないようにしたり,飲食物を摂取しないようにしたり,放射性ヨウ素の影響の少ない地域への避難することが重要と考えられます。また,放射性ヨウ素の吸入が想定される場合には,防護薬剤として安定ヨウ素剤(ヨウ化カリウム,KI)の予防服用が推奨されています。
安定ヨウ素剤(ヨウ化カリウム)をあらかじめ服用しておくことにより,放射性ヨウ素の甲状腺への取り込みを防ぐことができます(図2-17)。
(出典:安定ヨウ素剤取扱いマニュアル)
図2-17 放射性ヨウ素による内部被ばくの模式図
安定ヨウ素剤の服用時期とその効果については,下記の表のようになります(表2-3)。
表2-3 安定ヨウ素剤の投与時期と効果
| 安定ヨウ素剤の投与時期 |
効果 |
| 放射性ヨウ素にさらされる24時間前 |
90%以上の抑制効果 |
| 放射性ヨウ素を吸入した8時間後 |
40%の抑制効果 |
| 放射性ヨウ素を吸入した24時間後 |
7%の抑制効果 |
(出典:Health Phys., 78. 2000)
安定ヨウ素剤を服用した場合,その効果は1日持続しますから,原子力防災の場合は1回の服用で充分です。2日目に安定ヨウ素剤の投与を考慮しなければいけない場合には,避難を優先します。
・留意事項
放射性ヨウ素の吸入が予想される場合には,妊婦(特に妊娠中・後期)および小児への安定ヨウ素剤投与が重要です。一方,成人では放射性ヨウ素による甲状腺がんのリスクは小さく,特に40歳以上の成人に対する安定ヨウ素剤投与の必要性はありません。ただし,40歳以上の成人であっても,妊婦の場合は服用の対象となります。
・安定ヨウ素剤の予防服用
安定ヨウ素剤には,丸薬,散剤,内服液(散剤を溶かしシロップを加えたもの)の3種類の内服薬があります(図2-18)。
丸薬は1丸がヨウ化カリウム50mg(ヨウ素量として38mg)に相当します。
内服液は後述のように調剤し,乳幼児などにはスポイトなどを用いて飲ませることになります。
図2-18 安定ヨウ素剤の種類(丸薬(上),散剤(左),
散薬から調製した内服液(右))
(1)服用量と服用方法
下記の表(表2-4)に従って,適切な量を内服投与します。また,児童・生徒については,就学年齢で区切り,小学1年〜6年生までは一律丸薬1丸,中学1年以上に一律丸薬2丸を投与するのが実際的です。
表2-4 ヨウ素の服用量
| 対象年齢 |
ヨウ素量 |
服用内容 |
| 新生児 |
12.5mg |
安定ヨウ素剤内服液 1ml |
| 生後1ヵ月以上3歳未満 |
25mg |
安定ヨウ素剤内服液 2ml |
| 3歳以上13歳未満 |
38mg |
3歳以上7歳未満は安定ヨウ素剤内服液3mlを,7歳以上13歳未満は丸薬1丸 |
| 13歳以上40歳未満 |
76mg |
丸薬2丸。安定ヨウ素剤内服液6ml(ヨウ化カリウム量97.8mg)で代用も可 |
| 40歳以上 |
不要 |
− |
(2)服用回数
安定ヨウ素剤は1回のみの服用が原則で,2日目以降に服用しなければならない状況では避難を優先させます。胎児または新生児の甲状腺機能に影響を及ぼす危険性があることから,妊婦・授乳婦にも頻回投与は行いません。
(3)重複投与の防止策(服用対象者の確認)
服用対象者の名前・住所・年齢などを確認し,除外対象者への誤配がないよう,未服用者と服用済者を分別できるように問診票(表2-5)を作成します。
・安定ヨウ素剤内服液の調製と維持・管理
(1)調製
安定ヨウ素剤内服液の調製は,16.3mg/mlヨウ化カリウム(=12.5mg/mlヨウ素)50%単シロップ水溶液を,下図(図2-19)のように正確に調製し,その調剤記録を残しておきます。

図2-19 安定ヨウ素剤内服液の調製と服用方法の例
安定ヨウ素剤の丸薬および内服液の作成のための散剤はあらかじめ準備し,医薬品の貯法に従い地方自治体が定める保管場所に遮光の上,的確に維持・保管・管理し,必要時に保管場所から遮光措置を講じて服用場所へ速やかに運搬します。
過剰な量を長期服用すると甲状腺の機能異常を引き起こしますが,緊急時に100mgヨウ化カリウムの単回服用ではその心配はありません。ただし,副作用低減のためには,周辺住民に副作用についての情報を普段から提供しておくことが重要です。
服用してはならない者(ヨウ素過敏症,造影剤過敏症,低補体性血管炎,ジューリング疱疹状皮膚炎)やヨウ素アレルギーなどの副作用の問題については,現場で説明を受けられるようにすることが大切です。