2. 体内汚染の診断と線量評価

体内汚染の診断は、体内からの放射性物質もしくは放射線の検出により行います。そのため、口角スワブ鼻腔スメア(拭い取ったもの)や傷口からの分泌物等に汚染が認められれば、体内汚染を示唆する有力な証拠であり、同時に核種の同定や線量評価にも利用されます。また、便・尿・嘔吐物等の排泄物を計測・測定することも重要です。

なお、口や鼻腔周囲の体表面汚染や傷口汚染があれば、原則として体内汚染を疑います。

1) 体内汚染時の問診

一般的な問診(核医学の診断・治療の有無を含めて既往歴・現病歴)を行うことは、いうまでもありません。体内汚染があることが判明している場合およびその疑いがある場合には、本人もしくは随行してきた放射線管理要員等に対し、次のような項目について問診を行い、できる限り情報を得るように努めます。これらの情報から、体内動態や除染方法が明らかになることがあります。

@汚染の原因となった放射性核種は何か?

Aどのような化学形態(化合物等)か?

B溶媒は何か?

2) 生体試料(検体)の採取

口角・鼻腔スメアや傷口からの分泌物を滅菌綿棒により採取します。また、傷口に使用されていた包帯やガーゼも保管します。鼻腔や眼等は、両側の検査をすることを原則とします。スメア(スワブ)やガーゼ等は、体内汚染の有力な手掛かりとなる試料であり、プラスティック容器や袋に入れ放射線管理要員等に渡します。これらの試料から、核種同定および線量評価を行います。また、便・尿・嘔吐物等も保管します。

ちなみに、米国エネルギー省(DOE)の放射線緊急時支援センター・訓練サイト(REAC/TS)は、体内汚染が疑われる場合には24時間蓄尿、連続4日間の蓄便を推奨しています。

3) 体内汚染の診断

大きく分けて次のような2種類の方法から体内汚染を診断します。

(1) 生体試料からの線量測定

鼻腔スメア等の計測結果から、国際放射線防護委員会(ICRP)等によるモデル計算式に基づき、体内汚染量および被ばく 線量の推定が可能です。排泄物を経時的に測定することで、汚染量や除染効果を推定することができる場合もあります。

(2) 体外計測による線量測定

ホールボディカウンタによる全身計測、肺モニタによる計測、甲状腺モニタによる甲状腺部の測定から核種を同定し、線量評価を行います。体表面汚染が残存している場合には、偽陽性もしくは過大線量評価になるため、これらの検査の前に十分な体表面除染は不可欠です。

(3) ホールボディカウンタの原理と限界

ホールボディカウンタ(WBC)は体内被ばくによる放射線障害の評価を目的とし、体内の放射性同位元素の量(放射能:Bq値)を調べるために用いられます。体内にある放射性核種から放出される放射線(α線β線γ線X線)は組織に吸収され、透過性の高いγ線やX線のみが身体外に出てくるので、測定可能な放射性物質はγ線やX線を放出する核種に限られます。WBC用の放射線測定機器には、NaI(Tl)、プラスチックシンチレータを使用したシンチレーション検出器やGe半導体検出器が用いられており、一般にNaI(Tl)シンチレーション検出器を使用した装置が普及しています。

WBCは、低レベルの体内汚染を検出するために、周囲からの放射線(バックグラウンド)を減少させる目的でNaI(Tl)検出器や被測定者の背面に鉄材(一般に厚さ約10cm)の遮蔽が施されています。NaI(Tl)シンチレータは、そのγ線エネルギースペクトルを計測・解析することにより数分間の測定で体幹部の体内放射能を同定します。

(4) 各測定法の特徴の比較

上述のいくつかの方法に、内部被ばくを生じた環境における空気中の放射能濃度測定による方法を加えて、それぞれの特徴を表1に示します。空気中の放射能濃度測定には、現場でのサンプリングが必要です。患者さん(傷病者)への検査は不要であるが、個人の摂取量推定に不確定要素が大きく、推定誤差が大きくなります。鼻腔スメア法は、患者さん(傷病者)に迅速にできる検査法ですが、推定誤差が大きくなります。体外計測法は比較的短時間で計測可能ですが、γ線を放出しない核種については検出が難しくなります。バイオアッセイ法はα線・β線のみを放出する核種についても検出可能ですが、試料の収集と測定に1週間またはそれ以上の時間をみなければなりません。

表1 内部被ばくモニタリングにおける各測定方法の特徴
測定方法 体外計測法 バイオアッセイ法 空気中濃度から計算 鼻腔スメア法
比較項目
測定対象核種 γ線放出核種 α・β線放出核種 核種は限定しない 核種は限定しない
核種の例 Co-60
Cs-137
I-131
Mn-54
U-238
U-235
Pu-239
Sr-90
H-3
測定装置 全身カウンタ 前処理装置
化学分析装置
放射能測定装置
空気サンプリング装置
放射能測定装置
ダストモニタ
スメア採取器具
乾燥器具
放射能測定装置
被検者の協力 測定中の短時間の拘束を要する 数日かそれ以上の排泄物の収集 被検者の協力は不要 鼻腔の検査
性能 高感度検出器を要する
十分な遮蔽を要する
微量の放射性物質の検出が可能 摂取量推定精度は低い 摂取量推定精度は低い
特徴 時間的な変化の追跡調査が可能 体内汚染の有無についての情報 空気中濃度と摂取量の関係が一様でない 鼻腔スメアと摂取量の関係が一様でない
要する人手
評価精度

(原子力安全技術センター:被ばく線量の測定・評価マニュアルから一部改編)

(5) 線量評価モデルと内部被ばく線量計算コード

体内あるいは排泄物中の放射能の測定値を、摂取量あるいは預託実効線量に換算して解釈するためには、放射性物質の人体内挙動(図1)についての知見が必要です。国際放射線防護委員会(ICRP)は放射性物質の体内挙動を数学的に記述したものを線量評価モデルとして、呼吸気道モデルをPubl.66で、体内動態モデルをPubl.30/56/67/ 69/71で、そして胃腸管モデルをPubl.30で示しており、これらをもとに様々な計算コードが開発されています。

種々の方法(表1)で得られた放射能の測定値から、体内残留率や排泄率により放射性物質の摂取量が算定(図2)されます。実測した体内残留量や排泄量が計算コード上の残留曲線や排泄率曲線と合致する場合には、計算コードで与えられている実効線量係数を用いて、内部被ばくによる預託実効線量を知ることができます。

図1 線量評価モデルの概念
図1 線量評価モデルの概念
図2 内部被ばくに関する測定から線量評価までの流れ
(原子力安全技術センター:被ばく線量の測定・評価マニュアルから一部改編)
図2 内部被ばくに関する測定から線量評価までの流れ

4) 放射性核種別に見た体内汚染の診断

(1) α線核種による体内汚染

プルトニウム等のα線 核種の吸入の場合は、肺モニタによりα線核種崩壊に伴う特性X線を測定することで、体内汚染の診断および線量評価を行います。また、排泄物の測定は体内の残留率の評価に役立ちます。

(2) β線核種による体内汚染

β線崩壊による場合、(NaI(Tl)シンチレーション検出器およびホールボディカウンタ)により、γ線体外計測で検出します。放射性ヨウ素の吸入の場合は、甲状腺モニタで放射能汚染を測定し、被ばく線量を計算します。生体試料は、スペクトロスコピーによって核種の同定および残留率を計算します。なお、主にβ線のみを放出する核種については排泄物の測定(バイオアッセイ法)により算定されます。

(3) γ線核種による体内汚染

ホールボディカウンタで体外計測を行います。生体試料はGe半導体検出器で、ヨウ素等はNaI(Tl)シンチレーション検出器で測定し、核種同定や体内残留率を計算します。

(4) 中性子被ばくによる放射化

体内汚染がない場合でも、放射化による放射性核種が検出される場合があります(図3)。天然の放射性核種や核分裂生成核種以外が検出された場合、特にNa-24の場合は中性子 被ばくを考慮する必要があります。ホールボディカウンタによる体外計測や単位体積当たりの血液から被ばく線量の推定が可能です。

図3 試料からのNa-24検出表示例(Na-24由来のγ線のエネルギーピークが見られる)
図3 試料からのNa-24検出表示例(Na-24由来のγ線のエネルギーピークが見られます)
このページのトップへ